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東京地方裁判所 昭和33年(刑わ)5032号 判決 1959年10月31日

被告人 富沢利夫

昭八・七・一生 販売外交員

山田五郎治

昭三・五・八生 露店商

小室博司

昭七・一・二〇生 プレス業

主文

被告人富沢利夫を罰金五千円に、被告人山田五郎治、同小室博司を各罰金八千円に処する。

被告人参名に対し、各自の未決勾留日数中弐拾五日を、その壱日を金弐百円に換算して右各刑に算入する。

被告人山田五郎治、及び同小室博司が残余の罰金を完納することができないときは、金参百円を壱日に換算した期間それぞれ労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人参名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人富沢利夫は昭和三十三年二月中旬頃水道工事請負業、蓮井光義(当三十二年)から、同人がかねて田中不動産から賃借し内妻加藤島子名儀で経営していた東京都豊島区池袋二丁目所在バー「志摩」の店舗賃借権を譲り受け松尾時子にこれを経営させていたもの、被告人山田五郎治は被告人富沢利夫の義兄、被告人小室博司は被告人山田五郎治の友人であるが、右蓮井が田中不動産に対しバー「志摩」の賃料の支払を延滞したため右松尾が田中不動産から立退きを要求されるなどの紛糾を生じ、同年六月二日被告人富沢利夫は右賃借権を放棄しその損害の賠償として蓮井から金五万円の支払を受けることとなり且つ、被告人山田五郎治及び同小室博司とも相談のうえ蓮井から右債務の担保として同人所有の軽自動二輪車一台の引渡を受けた。ところがその直後、被告人富沢利夫は蓮井の懇請により右二輪車を同人に返還することを承諾したがその際、その鍵を保管している被告人山田五郎治に断つた上でこれを持ち帰えるよう指示したのに、蓮井は予備鍵を使用し被告人山田に無断でこれを持ち去つたので被告人らは蓮井の態度に憤慨し、かようなことでは二輪車を押えておかなければ五万円の支払を受けることはできないと考え、共謀のうえ三名同道して同日午後十一時頃同都江東区亀戸町三丁目九十九番地蓮井方に到り就寝中の蓮井および同人の内妻加藤島子(当三十一年)を呼び起して座りこみ、両名に対して、被告人小室博司及び同山田五郎治においてこもごも「われわれが仲に入つて話を決めたんだからわれわれに無断で車を持つて行かれては困るじやないか」「鍵を渡さないのに何故車を持つて来たんだ」「俺達の顔をつぶして車を持つて行くとはとんでもない野郎だ、車はどうしても今日もらつて行くぞ」「俺達の顔をつぶすとこの土地で商売が出来ないようにするぞ」などと申し向け、被告人富沢もその場に在つて無言の威圧を加え、三名において約一時間半にわたり右蓮井夫妻の身体に対する暴行右蓮井の営業に対する妨害等の挙に出で兼ねない気勢、態度を示して執拗に両名を追及しもつて共同して脅迫したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人等の判示蓮井光義及び加藤島子に対する脅迫の所為はそれぞれ暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第二号、刑法第二百二十二条第一項、第六十条(被告人等の本件所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項にいわゆる「多衆ノ威力ヲ示シ」て脅迫したものとして起訴されたものであるが同条項の律意は団体的多衆の威力を利用する暴力的行為につき特に刑を加重してこれを取締らんとするにあり、従つて右にいわゆる「多衆」とは(実行行為者との間における共同実行の意思連絡の有無に拘らず)多数人の集合それ自体が社会通念上集団的威圧を感ぜしめる程度のものであることを要するものと解するのを相当とするところ判示認定の事実は被告人三名共謀の上相共に犯行場所に至り共同して脅迫行為を実行したというに止まりその告知した害悪の内容も、被告人等以外の多数人の集団的威力を利用したものではないから、到底これをもつて「多衆ノ威力ヲ示シテ」脅迫したものとは解し難く、単に同条項後段にいわゆる「数人共同シテ」脅迫した場合に該当するに過ぎないものと解すべきである。)に各該当し、しかもそれぞれ一個の行為で二個の罪名に該当する場合であるから同法第五十四条第一項前段第十条によりそれぞれ犯情の重い蓮井光義に対する共同脅迫の一罪として所定刑中それぞれ罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で、被告人富沢利夫を罰金五千円、被告人山田五郎治、同小室博司を各罰金八千円に処し、同法第二十一条に則り主文第二項記載のとおり各未決勾留日数を各刑に算入し、同法第十八条に則り主文第三項記載のとおり残与の罰金につき被告人山田五郎治、同小室博司を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条により全部被告人三名をしてこれを連帯負担させることにする。

(裁判官 遠藤吉彦)

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